5-ALA 慢性疲労症候群に画期的効果:臨床研究で実証された治療法

長崎大学医学部の研究チームによって2024年12月に発表された新たな研究で、5-アミノレブリン酸(5-ALA)が慢性疲労症候群の治療に顕著な効果をもたらすことが実証されました。ADCK1遺伝子の変異を持つ患者において、5-ALAとクエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)の併用療法が症状を大幅に改善することが明らかになりました。

A novel frameshift mutation in ADCK1 identified in a case of chronic fatigue syndrome successfully treated with oral 5-ALA/SFC

5-ALA 慢性疲労症候群への新たな治療アプローチ

慢性疲労症候群とは:症状と診断の難しさ

慢性疲労症候群(CFS)は、休息では改善せず、身体的または精神的な労作によって悪化する衰弱性の疲労を特徴とする複雑な障害です。この疾患は診断が困難であり、多くの患者が適切な治療を受けるまでに長期間を要することがあります。CFSの主な症状には、極度の疲労感、睡眠障害、認知機能の低下、めまい、不安定感などが含まれます。特に特徴的なのは、以前は問題なくこなせていた日常活動でさえも疲労感を引き起こすことです。

診断の難しさは、CFSが除外診断であることに起因しています。つまり、他の疾患や状態を除外した後に診断されるものです。2015年に米国医学研究所(IOM)が発表した基準では、(1)6ヶ月以上続く説明のつかない疲労、(2)休息後も改善しない疲労、(3)労作後の体調悪化、(4)睡眠障害、(5)認知機能低下または起立不耐性のいずれかを伴うことが診断基準として挙げられています。

これまでの治療法は主に症状管理に焦点を当てたものでした。一般的な治療アプローチには、認知行動療法、段階的運動療法、睡眠管理、疼痛管理などがありますが、これらの方法が全ての患者に効果を示すわけではありません。そのため、新たな治療法の開発は非常に重要な研究課題となっています。

ミトコンドリア機能不全と慢性疲労症候群の関連性

近年の研究により、慢性疲労症候群とミトコンドリア機能不全との間に強い関連性があることが明らかになってきました。ミトコンドリアは細胞内のエネルギー生産工場として機能し、アデノシン三リン酸(ATP)という細胞のエネルギー通貨を生産しています。ミトコンドリアの機能が低下すると、ATPの生産量が減少し、エネルギー不足状態に陥ります。これが慢性疲労症候群患者が経験する極度の疲労感と持久力の低下の原因となる可能性があります。

慢性疲労症候群患者は酸化ストレスと活性酸素種(ROS)のレベルが上昇していることが多く、これがミトコンドリアの機能を損なう要因となります。酸化ストレスはミトコンドリアのDNA、タンパク質、脂質を損傷させ、エネルギー生産能力を低下させます。また、ミトコンドリアの構造異常や融合・分裂のバランスの乱れも慢性疲労症候群患者で観察されています。

特に注目すべきは、ADCK(AarFドメイン含有キナーゼ)ファミリーのタンパク質が、ミトコンドリアの機能維持に重要な役割を果たしているという発見です。ADCKタンパク質はセリン/スレオニンキナーゼやチロシンキナーゼにおいて保存されており、ミトコンドリアの構造と機能の保持に必須の下流ターゲットを制御しています。ADCK1の欠損はミトコンドリアの構造異常、機能低下、活性酸素種の増加、そして最終的には細胞死につながることが、モデル生物や筋肉細胞での研究から明らかになっています。

研究で証明された5-ALAの効果

5-ALA/SFCによる治療効果の臨床例

長崎大学の研究グループが報告した臨床例は、11歳から慢性疲労に悩まされてきた35歳の日本人女性のケースです。この患者は、通常の活動でも不釣り合いな疲労感と日中の過度の眠気を経験し、日常生活に支障をきたしていました。2008年に頭部MRIでは異常が見られなかったため、ナルコレプシーの疑いで睡眠クリニックに紹介されましたが、睡眠研究では正常な回復性睡眠パターンが示され、多発性睡眠潜時検査(MSLT)でも平均睡眠開始時間は正常範囲内で、睡眠発現REM期はありませんでした。これらの結果から、国際睡眠障害分類第3版で定義されるナルコレプシーや特発性過眠症の基準を満たさないことが確認されました。

2012年からモダフィニルとメチルフェニデートによる治療が開始されましたが、患者は依然として重度の眠気と無気力を経験していました。2018年11月、血清カルニチンレベルがわずかに低下していたため、レボカルニチン1500mg/日の投与が開始され、日中活動の向上が見られました。翌月にはユビキノン30mg/日が追加されました。

しかし、決定的な改善をもたらしたのは2021年1月に開始された5-ALA/SFC 100mg/日の投与でした。外出は依然として困難でしたが、2月に200mg/日に増量したところ、日常機能のさらなる改善が見られました。症状の進行により、2021年4月に病院への紹介が必要となり、より徹底的なミトコンドリア機能の評価が行われました。検査では血清CRP、ピルビン酸、乳酸、下垂体ホルモン、甲状腺ホルモンのレベルは正常でした。免疫学的評価でも異常は認められず、他の自己免疫疾患の典型的な兆候もありませんでした。2015年の米国医学研究所(IOM)の基準に基づき、患者は慢性疲労症候群と診断されました。

投与量と症状改善の相関関係

本研究では、5-ALA/SFCの投与量と症状改善の間に明確な相関関係が観察されました。レボカルニチンとユビキノンへの反応が不十分だったため、5-ALA/SFCの治療は段階的に強化されました。慢性疲労症候群の症状改善を評価するために、慢性疾患療法-疲労(FACIT-F)スコアが経時的に記録されました。

5-ALA/SFCの投与量は2021年4月に300mg/日に、2022年1月には400mg/日に徐々に増加されました。2022年8月に投与量を200mg、100mg、50mgに減量する試みがなされましたが、さまざまな活動の著しい低下を招きました。400mgの投与量に戻したところ、全てのスコアが顕著に改善し、ユビキノンの投与量を増やした後にさらなる改善が観察されました。

特に注目すべきは、投与量の調整に伴うFACIT-Fスコアの変化です。治療開始前は非常に低かったスコアが、5-ALA/SFC投与開始後、特に投与量が300mg/日以上に増加した後、著しく向上しました。投与量を減らした期間に一時的にスコアが低下したものの、元の投与量に戻すとすぐに回復し、4年間の観察期間中、高いレベルを維持しました。

これらの結果は、5-ALA/SFCの投与量と臨床効果の間に用量依存的な関係があることを示唆しています。適切な投与量(この症例では400mg/日)を維持することが、慢性疲労症候群の症状の持続的な改善に重要であることが強調されています。さらに、ユビキノンとの併用は効果を増強する可能性があり、特にユビキノンの投与量を増加させた後にスコアの改善が見られました。

【5-ALA/SFCとFACIT-Fスコアの相関図】

5-ALA ミトコンドリア機能改善のメカニズム

5-アミノレブリン酸(5-ALA)は、ヘム合成の前駆体として機能し、ミトコンドリアの機能とエネルギー代謝を改善することが示されています。5-ALAは体内でポルフィリンに変換され、最終的にヘムになります。ヘムは細胞内の多くの重要なタンパク質、特に酸化的リン酸化に関与するシトクロム複合体の必須構成要素です。

5-ALAの作用メカニズムは以下のように説明されます:

  1. ヘム合成の促進:5-ALAはヘム合成の律速段階の物質であり、その補給によってヘム生産が増加します。ヘムはミトコンドリアの電子伝達系で機能するシトクロムの必須成分です。
  2. シトクロムc酸化酵素の活性化:研究によれば、5-ALAの投与によってシトクロムc酸化酵素(電子伝達系の複合体IV)の活性が向上することが示されています。これにより酸化的リン酸化の効率が高まり、ATP生産が増加します。
  3. ミトコンドリア生合成の促進:5-ALAはミトコンドリアの数と質を改善することが示唆されています。これにより細胞のエネルギー生産能力が全体的に向上します。
  4. 酸化ストレスの軽減:5-ALAは抗酸化作用を持ち、活性酸素種(ROS)のレベルを低下させることができます。慢性疲労症候群患者では酸化ストレスが上昇していることが多く、この軽減が症状改善に寄与すると考えられます。

クエン酸第一鉄ナトリウム(SFC)との併用は、5-ALAの効果を増強します。鉄はヘム合成の最終段階に必須であり、5-ALAからヘムへの変換効率を高めます。また、ユビキノン(コエンザイムQ10)との併用は相乗効果をもたらす可能性があります。ユビキノンはミトコンドリアの電子伝達系で直接機能し、エネルギー生産を改善するだけでなく、強力な抗酸化作用も持っています。

健康な個体においても、5-ALA/SFCの経口投与が疲労を軽減し、気分を改善することが示されていますが、慢性疲労症候群に対する特定の研究はこれまで限られていました。本研究の重要性は、ミトコンドリア機能障害を標的とした5-ALA/SFCとユビキノンの併用療法が、従来の治療法で効果が得られなかった慢性疲労症候群患者において顕著な臨床改善をもたらす可能性を示した点にあります。

ADCK1遺伝子変異と5-ALAの関係性

新規フレームシフト変異の発見と意義

本研究の特筆すべき発見の一つは、慢性疲労症候群患者においてADCK1遺伝子に新規のフレームシフト変異が同定されたことです。患者、母親、姉妹の包括的なエクソン解析により、149の遺伝子に196のバリアントが見つかりました。jMorpデータベースでのアレル頻度が0.5%未満の、患者のみに見られるバリアントが調査されました。

タンパク質切断を伴う潜在的な疾患原因変異として、9つの遺伝子(TABV10-1、PCSK5、OTOG、OR4C5、GLB1L2、ADCK1、CDC27、FMA104B、CARD9)におけるフレームシフトや終止コドン獲得などの変異が含まれていました。遺伝子機能と患者の表現型を考慮した結果、ミトコンドリア機能に関連するADCK1遺伝子のヘテロ接合性フレームシフト欠失(chr14:77907900A≥-、p.Asn280fs)が後続の機能解析の対象となりました。

末梢血cDNAからのADCK1の配列解析により、欠失部位でのナンセンス依存性mRNA分解が確認されました。次世代シーケンシングを用いた解析では、欠失アレルの約70%が分解されていることが明らかになり、これはナンセンス依存性分解の予想される効果と一致していました。

この発見の意義は複数の観点から重要です。まず、この変異はこれまで文献に報告されておらず、日本人データベースにも存在が確認されていない新規のものです。次に、ADCKファミリータンパク質がミトコンドリア機能に重要な役割を果たすことが知られており、ADCK1の変異がミトコンドリア機能不全を引き起こす可能性が示唆されています。さらに、ハエを用いた研究では、ADCK1欠損が成長障害、翼の変形、飛行困難、運動活動の低下を引き起こすことが示されています。筋肉細胞においても、ADCK1の抑制はミトコンドリアの融合、機能障害、活性酸素種レベルの上昇、細胞死を引き起こすことが報告されています。

5-ALA ヘム合成と免疫力への影響

5-ALAとヘム合成の関係、およびそれが免疫システムに及ぼす影響は、慢性疲労症候群の治療における5-ALAの効果を理解する上で非常に重要です。5-ALAはヘム合成の最初のステップであり、最終的にはヘムとなります。ヘムは多くの重要なタンパク質、特に酸素運搬に関わるヘモグロビンやミオグロビン、電子伝達に関わるシトクロム、そして様々な酵素の補因子として機能します。

免疫機能においても、ヘムは重要な役割を果たしています。例えば、一部の免疫細胞、特にマクロファージは、活性化された状態でヘム要求性酵素の発現を上昇させます。これらの酵素は炎症反応や病原体の認識、除去において重要な役割を果たします。また、ヘムはミトコンドリアの電子伝達系を介したATP産生にも不可欠であり、免疫細胞のエネルギー需要を満たすために必要です。

5-ALAの投与による効果としては、以下のような免疫機能への影響が考えられます。

  1. 免疫細胞のエネルギー代謝改善:5-ALAはミトコンドリア機能を向上させることで、免疫細胞のエネルギー代謝を改善します。免疫応答は高いエネルギーを必要とするプロセスであり、適切なATP供給は免疫細胞の機能に不可欠です。
  2. 抗酸化作用:5-ALAには抗酸化特性があることが示されており、過剰な酸化ストレスから免疫細胞を保護する可能性があります。慢性的な炎症や酸化ストレスは免疫機能を低下させることが知られており、その軽減は免疫バランスの回復に寄与します。
  3. 炎症反応の調節:一部の研究では、5-ALAが炎症性サイトカインの産生を調節し、過剰な炎症反応を抑制する可能性が示唆されています。慢性疲労症候群では、慢性的な低レベルの炎症が存在することがあり、これの調節は症状改善に繋がる可能性があります。

本研究で同定されたADCK1遺伝子変異を持つ慢性疲労症候群患者において、5-ALA/SFCが顕著な効果を示したことは、この患者におけるミトコンドリア機能不全とヘム合成経路の関連を示唆しています。ADCK1の変異によりミトコンドリアの構造と機能が損なわれ、それによるエネルギー産生の低下や酸化ストレスの増加が、慢性疲労症候群の症状に寄与している可能性があります。5-ALA/SFCの投与によってヘム合成が促進され、ミトコンドリア機能が回復することで、エネルギー代謝と免疫機能の両方が改善した可能性が考えられます。

5-ALAとユビキノンの併用効果

併用による相乗効果のメカニズム

5-ALA/SFCとユビキノン(コエンザイムQ10)の併用は、慢性疲労症候群の治療において注目すべき相乗効果をもたらす可能性があります。これら二つの物質は異なるメカニズムでミトコンドリア機能を支援するため、組み合わせることでより包括的なミトコンドリアサポートが実現します。

ユビキノンはミトコンドリアの電子伝達鎖において重要な役割を果たす脂溶性物質です。電子伝達鎖の複合体Iと複合体IIから複合体IIIへの電子の伝達に不可欠であり、ATP産生の効率に直接影響します。また、ユビキノンは強力な抗酸化物質でもあり、ミトコンドリア膜の脂質過酸化を防ぎ、活性酸素種による損傷からミトコンドリアを保護します。

一方、5-ALAはヘム合成の前駆体であり、シトクロム複合体の構成要素であるヘムの生産を促進します。シトクロム複合体は電子伝達鎖の複合体IIIと複合体IVに含まれており、酸素を利用してATPを生成する過程に関与しています。

5-ALA/SFCとユビキノンを併用することで、以下のような相乗効果が期待されます:

  1. 電子伝達鎖の複数の部分の機能向上:ユビキノンが複合体I/IIから複合体IIIへの電子伝達を改善し、5-ALAが複合体IIIおよびIVのシトクロム機能を強化することで、電子伝達鎖全体の効率が向上します。
  2. ATP産生の増加:両物質が電子伝達鎖の異なる部分を支援することで、ATP産生能力が相乗的に高まります。これにより、慢性疲労症候群の主症状である持続的な疲労感が緩和される可能性があります。
  3. 酸化ストレスの包括的な軽減:ユビキノンがミトコンドリア膜を酸化ストレスから保護し、5-ALA/SFCが全体的なミトコンドリア機能を向上させることで、活性酸素種の産生が減少し、酸化ストレスが総合的に軽減されます。
  4. ミトコンドリア生合成の促進:いくつかの研究では、ミトコンドリア栄養素の組み合わせがミトコンドリアの生合成を促進し、ミトコンドリアの劣化を防ぐことが示されています。これにより、細胞内のミトコンドリアの数と質が向上し、エネルギー生産能力が全体的に増加します。

本研究の症例では、ユビキノンの投与量を増加させた後に臨床スコアのさらなる改善が観察されており、この相乗効果の可能性を支持しています。このことは、慢性疲労症候群の治療においてこれらの物質を組み合わせることの潜在的な利点を示唆しています。

長期使用の安全性と将来的な治療展望

5-ALA/SFCとユビキノンの長期使用の安全性は、慢性疲労症候群のような長期的な治療を必要とする疾患において重要な考慮事項です。本研究の症例では、患者は5-ALA/SFCを4年間継続して服用しましたが、明らかな副作用は認められませんでした。これは、5-ALA/SFCの長期使用の安全性を支持する重要な観察結果です。

過去の複数の臨床研究でも、5-ALA/SFCの安全性が示されています。例えば、成人発症スティル病を対象とした前臨床研究およびパイロット研究では、5-ALA/SFCの安全性と有効性が報告されています。また、軽度から中等度の新型コロナウイルス感染症患者を対象としたランダム化探索的第II相試験においても、5-ALA/SFCの安全性が確認されています。

ユビキノンについても、多くの研究でその安全性が示されています。例えば、高齢者におけるセレンとコエンザイムQ10の補給に関する研究や、様々な疾患における疲労症状に対するユビキノンの効果に関する臨床試験において、重大な有害事象は報告されていません。

将来的な治療展望としては、以下のような方向性が考えられます:

  1. 個別化された投与量調整:本研究の症例では、5-ALA/SFCの投与量と臨床効果の間に明確な相関関係が観察されました。将来的には、患者個々の遺伝的背景や臨床症状に基づいて投与量を最適化することで、治療効果の最大化が期待されます。
  2. バイオマーカーの開発:ミトコンドリア機能不全を早期に検出し、治療反応性を予測するバイオマーカーの開発が重要です。ADCK1遺伝子変異などの遺伝的要因の検査は、治療法の選択や予後予測に役立つ可能性があります。
  3. 併用療法の最適化:5-ALA/SFCとユビキノン以外にも、ミトコンドリア機能を支援する他の栄養素や薬剤との併用効果を探索することで、より効果的な治療法の開発が期待されます。
  4. 予防的アプローチ:ミトコンドリア機能不全が慢性疲労症候群の一因であるという認識が広まれば、リスク因子を持つ個人に対する予防的介入の可能性も検討されるでしょう。

本研究は一例報告ですが、この成功例は慢性疲労症候群の治療におけるミトコンドリア機能を標的とした介入の重要性を示唆しています。今後、より大規模な臨床試験による検証が求められますが、5-ALA/SFCとユビキノンの併用療法は、慢性疲労症候群患者にとって有望な治療選択肢となる可能性があります。

まとめ

5-ALAは慢性疲労症候群の治療において画期的な効果を示すことが臨床研究で実証されました。特にADCK1遺伝子変異を持つ患者では、5-ALA/SFCとユビキノンの併用療法がミトコンドリア機能を改善し、著しい症状緩和をもたらします。この発見は慢性疲労症候群患者に新たな希望をもたらす重要な進歩です。

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